借金2億、苦しい生活、そのときどうする



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2017年11月14日 9時15分
プレジデントオンライン



借金を返済するために筆を執り、直木賞を受賞した山本一力氏。その後もハイペースで作品を発表し続け、来年で借金を完済する見通しだ。どんな逆境にあっても、お金に振り回されることはなかった。その哲学とは――。

■借金。売れない日々、しかし絶望はしない

2億円の負債を抱えたのは、映像制作事業で失敗した46歳のとき。勤め人では返済できない。さてどうしようと考えて、これはベストセラーを出して借金返済に充てるしかないと初めて小説を書き始めました。周りからは「自己破産してもう一回やり直しなさい」と言われたけれど、借りた金がチャラになるなんてそんなバカな話があるかと、自己破産はしませんでした。

「オール讀物」で新人賞を取ったものの、そこから『あかね空』で直木賞を取って小説で食えるようになるまでの5年間は、本当に生活が苦しかった。でも、一度も死にたいと思わなかったし、絶望もしなかった。

あの頃、俺を支える杖になってくれたのが、先輩から教わった「怖いものは食え」という言葉。蛇を怖がって逃げていると、どこまでも追いかけてくる。しかし蛇に向き合って食ってしまえば、目の前から恐怖は消えてなくなる。愚痴っても祈っても借金は減らない。

そんな暇があったら一文字でも面白い小説を書いて「借金を食う」しかない。そう思って、編集者から何度ダメ出しを食らっても書き続けました。

俺たち家族が暮らしている江東区には砂町銀座といういい商店街があって、見切り品は100円のものが半値くらいで買えるんです。つまり工夫をすれば、1日1000円でも倍以上の価値がある生活ができるわけですよ。かみさんはここの「魚勝」っていう魚屋に通いつめて、あらしか買わないから陰で「あら女」って呼ばれてたんだ。

マンションの電気を止められたこともありました。家主さんはいい人だったから家賃を待ってくれたけれど、電力会社はそうはいかない。でも、俺らが「しょうがねえよ、電気代を払ってねえんだもん」って開き直ってるから、小僧たちも笑って暗がりを楽しんでいた。そこで親が不安がっていたら、小僧にも伝染していただろうね。

生活費がないときは、消費者金融にも世話になった。近年、消費者金融の利息返還訴訟が取り沙汰されているのは、とんでもない話だと思ってる。だってさ、「この金額を、この金利で貸しますよ」「はい」と約束して借りておきながら、あとから「利息が高い」と言い出したら、世の中の仕組みが壊れてしまうよ。借りるときは借りられるだけでありがたいと思っているのに、あとから約束を反故にするやり方はいただけない。

俺は、『あかね空』が売れて金が入ってきたら、まず消費者金融に全額返しました。そうしたら本当に喜んでくれて、「困ったときはまたどうぞ」と言ってくれたし、それが縁で日本消費者金融協会の会報誌にエッセイを書くことになったんだ。これも、利子から逃げずに食いにいった結果だろうね。

■実は困窮していた武家の生活

昔から「金に汚い」「お金に執着しない」という言い方があるように、日本人はお金に対して妙に気取ってしまう部分があります。特に武家社会においては、金のことを話すのは卑しいという風潮があった。ところが、それこそがとんでもない誤りなんだ。

江戸時代で一番お金に苦労していたのは武家です。何も仕事をせず、徳川家からいただく禄を食んで使うだけなので楽な身分のように見えても、そうではなかった。百俵取りの御家人は嫡男が自動的に跡を継いで、よっぽどの失策をしない限りクビにはならないけれど、俸給というものには昇給がない。ところが、諸色(物価)はどんどん上がっていくから、生活はどんどん苦しくなっていく。しかも彼らには外出時には供を引き連れるという作法があるので、奉公人を雇わなくてはいけない。だから、御家人の生活は本当に困窮していたんです。

当時の徳川幕府を現在の株式会社だとしたら、直属社員の旗本や御家人に「一生雇うけど一生給料は上がらないよ」と言っていたわけですから、どこかで生活は破綻しますよ。今の経営者は、自分が渡す給料で社員がちゃんと暮らしていけるかをまず考えるのに、徳川幕府は社員である武家に対してなんの経済政策もしなかった。これこそが、武家社会崩壊の1つの要因といえます。

その後、明治政府の下で近代化が進んでも、やはりお金に関しては、為政者は真正面から取り組まなかった。黙っていても金が入る自分たちには甘く、ヒエラルキーの下のほうにいる者には「お金の話をしたらいかんよ」というイメージを植えつけた。この誤った認識が、現代にも根強く残っています。

■楊枝だってタダじゃない

「お金の話をしてはいけない」という悪しき風潮を変えるには、親が子どもに「真正面からお金に向き合いなさい」と教えて、使い方をきちんと叩き込むしかないんじゃないか。たとえば、うちの夫婦は年中出張だから、出かける前に小僧たちになけなしの金を渡していく。すると小僧たちは、4日間はつましいものを食べて、5日目に焼き肉に行くんだ。その4日はつらいわけじゃない。5日目に向けて、何を食べようかと発想を変えて楽しんでるわけ。

不景気が長く続くせいで、とにかくお金を貯めこもうとする人が多いけれど、お金を使わずには生きられない。出銭の額が変わらないなら、「使いたくないなあ」と嫌がるのではなく、「今日はこれだけ使えるのか。じゃあどう使おうか」と楽しんで向き合えば、使い方は大きく変わってくると思います。

老後の不安を抱えて、お金を貯め込んだまま死んでしまったらなんの意味もない。貯金通帳の数字は単なる数字。買い物をしたら当然残高は減る。それを怖がっていたら、死ぬまでお金に支配されてしまいますよ。

だから、特に若い世代には、「金に主導権を渡さず、自分で金をコントロールしろ」と言いたい。「怖いものは食え」の精神のもと、自分の意思で金を使えば、金がなくなる不安から自由になれるでしょう。武士は「武士は食わねど高楊枝」という精神論で不安を克服しようとしたけれど、結局、叶わなかった。楊枝だってタダじゃないんだからさ。

日本人にとってお金とは:金に気高い精神が武家社会を滅ぼした

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作家 山本一力(やまもと・いちりき)
1948年、高知県生まれ。大手旅行会社、広告制作会社などを経て、97年に『蒼龍』で第77回オール讀物新人賞を受賞。2002年、『あかね空』で第126回直木賞を受賞。近著にニューヨークを舞台にした『サンライズ・サンセット』(双葉社)などがある。

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(作家 山本 一力 構成=須永貴子 撮影=市来朋久)





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